うつ病患者に対して共感する方法

人が愚痴をこぼしたり、弱音を吐いたりするのは、「この気持ちを分かって欲しい」と思うから、そして共感の言葉をかけてもらいたいと思うからです。

こちらの意見や感想を控えて、黙って話を傾聴するのも、フィードバックをするのも、患者さんの気持ちをキャッチして、じわーっと共感するためです。

そのときのポイントは、繰り返しになりますが、
「この人はどんな気持ちかな?」
「そう感じるのはなぜかな?」
ということです。

つまり、「気持ちとその理由」ですね。
これが分からなければ、共感はできません。もし分からない場合には、次のような対応をしましょう。
①さらに続けて、じっくりと聴く
②質問する

ここでは、「質問」に焦点を合わせて学んでみましょうね。

質問のポイント

質問にもいろいろな目的ややり方がありますが、ここで特に大切にしていただきたいのは、先ほど申し上げた「患者さんの気持ち」と「その気持ちを持った理由」の二つです。

すなわち、
①患者さんの気持ちを尋ねてみよう
②その気持ちを持った理由を尋ねてみよう
ということです

気持ちを尋ねる質問

難しく考える必要はありません。
・「どんな気持ち?」「どんな感じ?」「どんなふうに思う?」と尋ねる。
・「あなたの気持ち、もう少し聴かせて?」と促す。
のです。

患「もう病院には行きたくない」
私「そう……。もう少し、あなたの気持ち、聴かせてくれる?」

患「待合室にいると、胸が苦しくなるの」
私「苦しくなるんだぁ。苦しいって、どんな感じなの?」

患「押しつぶされそうな感じ」
私「そっかぁ。そういう時って、どんな気持ちになる?」

患「早くここから逃げ出したいって気持ち」
私「早くね、うんうん。そんなに苦しければ、そりゃあ逃げ出したくなるよねぇ」

理由を尋ねる質問

患者さんがそういう気持ちになった理由を尋ねます。
どんなに否定的な感情でも、「その人がそう感じるのは当然」なのです。ちゃんと「もっともな理由」があるのです。だから「そう感じるのは当然だよ」と共感するのです。

もしも、当然である理由がよく分からなければ、患者さん本人に尋ねてみましょう。
・「どうしてそう感じたの?」「なぜそう思うの?」と尋ねる。
・「そう感じた理由、聴かせてくれる?」と促す。

患「もう病院には行きたくない」
私「そう……。どうしてそう思ったのか、聴かせてくれる?」

患「待合室にいると、胸が苦しくなるの」
私「ふーん。どうしてかなあ?」

患「なんか、みんなの目が怖いの。じろじろ見られているようで。そんなこと無いって分かってはいるんだけど……」
私「そっかぁ。でも、待合室でそんな気持ちになるんじゃ、怖くて行きたくなくなるよねぇ」

尋問調にならないように注意

「そう感じるのは当然。だからその理由を聞かせて」というニュアンスで尋ねます。
決して「そう感じるのはおかしい。もしも、言い分があるなら言ってみろ」というニュアンスにならないように気をつけてください。

警官や検察官が、罪を暴くために尋問するような質問でなく、弁護士が弁護のポイントを探るために尋ねるような質問を心がけましょう

状況を尋ねる質問

勇気づけの質問の基本は、先ほど申し上げたように「気持ち」と「理由」を尋ねることです。

そして、この二つの質問が自由に使えるようになってきたら、今度は「状況を尋ねる質問」も使えるようになりましょう。
相手が置かれている状況を、リアルにイメージできるようになればなるほど、相手の気持ちもよく共感できるからです。

ポチが死んじゃった

たとえば、最近散歩で知り合ったお年寄りが、今日は暗い顔をしていたとします。
どうしたのかと尋ねてみると「今朝、うちのポチが死んでしもうたんぢゃ……」という答え。

ポチっていうくらいですから、犬でしょうね。でも、あなたはポチについて何も知りません。そこで尋ねます。「そのポチって、どんなワンちゃんだったんですか?」

すると、おじいさんはポツリポツリと語り始めました。
「今を去ること10年前、わしは家内を亡くしましてな……」。
※これは非常に危険ですね。日本の男性はほとんどマザコンですから、先に奥さんを亡くした場合、半年以内に体や心に何かの影響が出てくると言われています。
逆のケースだと、女性はかえって元気になるらしいですが……(苦笑)。

このおじいさんも、こころの中にぽっかりと穴が空いたようで、毎日うつうつと過ごしていました。

そんなある晩、雨が降ってきたので、早めに雨戸を閉めようとしたところ、庭先できゅーきゅー鳴く声が。見ると、小さな小犬が、庭木の根元で震えています。
かわいそうに思ったおじいさん、玄関先に段ボールを用意し、温かいミルクを与え、ポチと名付けて励ましながら看病しました。

翌朝、元気を取り戻したポチは、以来10年間、うれしいときは喜び二倍、悲しいときは悲しみ半分に分かち合って、おじいさんと共に生きてきました。でも、そのポチが死んでしまったのです!

……というのと、昨晩拾ってポチと名付けた小犬が、看病の甲斐なく今朝死んでしまったというのとでは、何というか、悲しみの質が違いますよね?
かわいがっていた飼い犬が死んだと聞かされれば、「それはおつらいことでしょうね」と共感することができます。

でも、今申し上げたような細かい事情を知っているのと知っていないのとでは、同じセリフでも、おじいさんが感じる慰めの力は、全然違ってくるはずです。
それは、「共感の深さ」が違ってくるからです。

アドバイスするためではない

状況を尋ねる質問は、今申し上げたように、より深いレベルで共感するために行ないます。よりしっかりと、相手の気持ちをキャッチできるようになるためです。
決して、アドバイスや説教のポイントを探すためではありません。これ、重要ですよ!

患「もうやだ、死にたい……」
私「どうしたの? 何かあったの?」

患「集中できなくて、会社でもぼーっとして、仕事がなかなか進まなくて。だから、他の人たちに申し訳なくて」
私「そう。会社の人たちに何か言われちゃった?」

患「ううん。課長は、『今はリハビリ期間だと思ってるから、できるペースでやってくれればいい』って言ってくれるんだけど……。でも、他の人たちが、ちょっと離れてひそひそ話とかしてるのを見ると、私の仕事が遅いって噂してるんじゃないかって思って……」
私「そっかぁ。ひそひそ話をしているときとか、あなたの方をちらちら見たり、指さしたりするの?」

患「そんなことはない。だから、何でもないっていうふうに、気持ちを切り替えようとするんだけど、そんなふうにするのも疲れちゃって……」
私「そうなんだー。そうやって気持ちを一生懸命切り替えるのが大変なんだね」

患「そうだよ。いくら切り替えようとしても、すぐに『嫌われる』って思っちゃうんだもん」
私「そりゃあ、苦しいよねぇ。もう死んで楽になりたいって思うのは当然だよ」

この中で、「私」は、会社の人たちが患者さんに、嫌みを言ったり、指を指したりしているのかどうかを尋ねていますね?
でもそれは、患者さんに「気のせいなんだから、そんなに深刻に考えるな」と説教するためではありません。
※そう言いたくなりますけどね!
それは、患者さんの気持ちをより深く知るためです。

こうやって、ていねいに患者さんの気持ちを尋ねていくことで、「気持ちを前向き・肯定的な方向に切り替えることが疲れる。だから苦しい。だから死んで楽になりたい」というこころのカラクリが見えてきました。
だから最後に、「死んで楽になりたいって思うのは当然だ」と共感できたのです。
※もちろん、「死んでいい」と言っているのではありませんよ。
「私はあなたに死んで欲しくないけれど、あなたが死にたいと思った気持ちは、よく理解できるよ」という意味です。

不安解消のために質問しない

患者さんに質問すると、共感のレベルが深まりますし、「あなたのことをもっと知りたい」というメッセージが伝わって、患者さんを勇気づけます。

ただし、「あなたの不安解消のため」に、患者さんにいろいろと質問するのは避けましょう。それは患者さんに不安を押しつけることになって、ますますストレスを与えてしまいますからね。
そうなると、勇気づけどころか、勇気くじきになってしまいます。

Gくんが精神安定剤をOD(大量摂取)しました。翌々日、カウンセリングをしましたが、ある程度気持ちが落ち着いたようでした。

帰るとき、付き添ってこられたお母さんが、Gくんにこう声をかけました。
「もう大丈夫なの? 気分は良くなった? 死にたいって気持ちはなくなった?」
それを聞いたときのGくんの顔……。この世の終わりというような表情でした。そして、次の日からしばらく寝たきりになってしまったそうです。

お母さんとしては、またこういうことが起こるのではないか、息子が死んでしまうのではないかと心配で不安だったのでしょう。

Gくんが「もう大丈夫だよ。元気になったよ。死にたいなんて思わなくなったよ」と言えば、お母さんは安心です。だから、Gくんにそう言って欲しかったのです。そうやって、自分の不安を解消してもらいたかったのです。

その気持ちは良く分かります。
でも、Gくん自身が不安で、生きていくのが精一杯なのに、お母さんの不安の面倒まで見られるはずがありませんよね?
それは、骨折しているのに、お母さんを背負って歩かなければならなくなったようなものです。だから、かえってうつ状態がひどくなってしまったのですね。

不安を感じるのは当然

もちろん、患者さんの家族だって人間ですから、不安や恐れはあるでしょう。そして、それは患者さんがうつ病であることによって引き起こされる不安なのですから、患者さんに早く回復してもらいたいと思うのは、そりゃあ人情ってものです。

でも、それを解消する責任は、患者さんにはありません。夜泣きする赤ちゃんに、両親の不眠を解消する責任がないのと同じです。できないのですからね。

ですから、患者さんに不安解消を期待するのはやめましょう。
不安感だけでなく、罪責感についても同様です。
「あなたは、お母さんのせいでうつになったと思っているんでしょう?」と問い詰めたり、「ごめんなさい。許して。ね? ね?」と、しつこく許しを求めたりするのも、患者さんにとってはストレスになります。

不安や罪責感を持つのは、仕方がありません。そんなときは、ご自分がカウンセリングを受けたり、自助グループに属したり、息抜きをしたりしながら、患者さん以外の人に助けてもらうことにしましょう。

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