うつ病患者を勇気づけのためにするべき2つのこと

これまで、いろいろなことについて学んできました。これは、患者さんを「勇気づける」ためです。

勇気づけというのは、患者さんに、「自分は大切ですばらしい存在で、だからすばらしいことができる」と信じてもらうような働きかけのことでしたね.
そして、そういう「自己尊重・自己信頼」を得るには、他の人から大切に扱ってもらうのが一番だという話でした。

そして、家族であるあなたの仕事は、患者さんに「あなたは大切な存在だ」ということを伝えることです。
この大きなテーマを忘れると、今回学んでいただいた技法は、患者さんを操作し、自分の思い通りにさせるための武器になってしまいます。もしそんなことになれば、患者さんは敏感にそれをキャッチして、ますます心を閉ざしていくでしょう。

「あなたは大切な存在だ」というメッセージを伝えること。それは、医師やカウンセラーよりも、むしろあなたの方が上手に実行できる働きです。

医師やカウンセラーは、職務上、どうしても「治す」ことに意識を向けざるを得ません(お金をいただいていますからね)。
そして、診察中・面談中は、もちろん心をこめて関わりますが、診察や面談の時間以外は無関係な他人に戻ります(治療のために必要なので、あえて一線を引いているのです)。

でも、家族であるあなたは、24時間、365日、ずっと変わらず家族です。ずっとずっと、患者さんのことを大切に思っています。
「あなたは大切だ」というメッセージは、あなたが一番上手に患者さんに伝えることができるのです。

大切だと信じさせてくれ

患者さんは、病気であるとかないとか、働いているとかいないとか、元気があるとかないとかにかかわらず、「今あるがままの自分」を大切にして欲しいと思っています。

「病気が治ったら大切」「お金を稼げるようになったら大切」「家事ができるようになったら大切」「笑えるようになったら大切」「元気になったら大切」ではありません。

そうではなく、「こうしてここにいてくれるだけでうれしい」と、あなたに思ってもらいたいのです。
そして、それを自分では信じられないで苦しんでいます。それがうつ病です。
いや、本当はうつ病が発症していない多くの人も、それを信じていないのですが、とりあえずがんばりがきいているので、「自分が大切な証拠」を手に入れることができているんです。働いているとか、身だしなみをきちんとしているとか、人の関心を引きつけるようなことができるとか……。

でも、うつ病になると、そんな証拠は全部吹っ飛んでしまいます。だから、自分が、「今このあるがままで大切だ」なんて、とても思えないのです。

でも、そう思えなければ、前向きに生きてはいけません。だから、他の人に信じさせて欲しいと思っているのです。
医師は薬などで神経の働きを正常に近づけてくれます。カウンセラーは、ものの受け取り方をもっと楽なものに修正してくれます。

そして、あなたが担っているのは、患者さんが一番望んでいる、「自分は大切な存在だと信じさせてくれ」という心の叫びに応えることです。

プラスからプラスの人間観

「あなたは大切」というメッセージを伝えるのが、あなたの仕事だと申し上げました。それには、
×「今はマイナス状態の患者さんを、プラス状態にするため」
という関わり方ではなく、
○「すでに患者さんはプラスだ。だからもっと良くなっていく
というメッセージを伝えるような関わりが大事です。
あなたは本当にすばらしい子だ。だから、もっとすばらしくなるよ
と、このフレーズを何度も自分で言ってみてください。また、人にもこのような言葉を使ってみてください。

ほのぼのとしたものが生まれ、時には照れくさくもあり、でも、そこに新しいエネルギーが注入されるのを、あなたも肌でお感じになることでしょう。

これが、みなさんとご一緒に考える「ネアカ一元論」です。
すばらしいから、よりすばらしくなっていくという、今すでにあるところをすばらしい原点として捉え、さらに、そこに豊かさが深められていくという人間のとらえ方、人生観です。

このあと、「プラスからプラス」の考え方に基づく、勇気づけになる関わりを2つ紹介しましょう。それは「感動する」と「感謝する」です。

感動する

「えらいね」というようなほめ言葉も、「あなたは大切」を表しているのですが、どことなく「上から目線」を感じることがあります。ほめる-ほめられるという関係の場合、どちらが上かというと、ほめる方が上ですよね?

この上下の位置関係が、うつ病の患者さんをみじめにさせることがあるのです。
もちろん、ほめている方は、上から目線なんて毛ほども思っていないでしょうけれど。

でも、患者さんを励ますつもりでほめたのに、よけいにつらい思いをさせたみたいだという経験、ありませんか?

ほめるというより感動する

ほめるのではなく、「感動する」というふうに考えてみましょう。
「励ますためにほめる」というのは、「今のあなたはマイナス。だから私がほめて、あなたをプラスに引き上げてあげる」という立場だということです。うつ病の患者さんは、物事を否定的に捉える癖がありますから、励ましの部分ではなく「今のあなたはマイナス」という部分に注目してしまうのです。だから、よけいにみじめになるのです。

「プラスからプラス」の関わりをするということは、「今のあなたがすばらしい」ということです。今の患者さんがすばらしいなら、そこには必ず「感動の種」があるはずです。それを見つけて、感動していることを患者さんに伝えましょう。

リフレーミングも感動の種探し

リフレーミングの技法のところで、「~にもかかわらず~なのはなぜ?」「~にもかかわらず、~できる力はどこから来るの?」という言い回しを学びましたね。
これも、「感動の種探し」と捉えてみてください。

患「会社に行くと、みんなに迷惑をかけているんじゃないかっていう思いがやってきて、いても立ってもいられない気分になるんだ」
私「それなのに、どうして出勤できてるの?」

患「だって、そう思うのは病気のせいだって分かってるもの」
私「そっかぁ。でも、普通だったら、つらかったら逃げ出したくなるじゃない? それなのに、そういう思い込みがやってきたときに、どうやって自分を支えてるの?」

患「一生懸命、これは思い込みだ、事実じゃないんだって言い聞かせてる」
私「すごいなあ。感情がカーって高ぶると、なかなかコントロールできないのに、そうやってコントロールできてるんだねぇ」

本気で感動する

ちなみに、本当に「すごい」と感動していないと伝わりませんよ。口先だけのテクニックでは、患者さんを勇気づけることはできません。
もちろん、形を真似ることで、だんだんと魂が入ってくるということもありますから、技術を知らないよりは知っている方がいいですが。

感謝する

「プラスからプラス」のメッセージ、「あなたは大切」というメッセージを、一番よく表すことができるメッセージ。感動よりも、さらに強烈に「あなたはOK」というエネルギーを伝えるメッセージ。

それは「ありがとう」です。

報われない思い

うつ病の患者さんの多くは、ものすごく他人に気を遣って生きてきました。
ところが、そのがんばりに見合うだけの報いをもらってきたかというと、必ずしもそうじゃないんです。そこで、心の奥底で、報いが足りないことを残念に思い、恨みにさえ思っています。

だから、あなたの「ありがとう」という言葉は、患者さんが抱える、そういう残念さや恨みに対しても、潤いを与えるんですね。

「ありがとう」は人を勇気づける

Hちゃんは5才です。朝ご飯を食べ終わったあと、お母さんが洗濯物を干している間に、踏み台を持ってきて、台所でお皿や茶碗の洗い物をしました。
ところが、水を勢いよく出したせいで、あたりに水しぶきが飛んでしまいました。
しかも、ご飯粒が茶碗にこびりついたままだったのです。

そこにお母さんが戻ってきて、びしょびしょの床と、ご飯粒がこびりついたままの茶碗を見て一言……。
「何これ、びしょびしょじゃないの! それに、ご飯粒もこびりついたまま! 誰が洗い物しろって言ったのよ。まったくよけいな事して、お母さんの仕事が増えちゃったじゃないの。ぶつぶつぶつ……」
なんて言いませんでした。もしそんなことをしたら、Hちゃんは二度と自発的にお手伝いをしようとはしなくなるでしょう(こういう対応を繰り返しておいて、「うちの子、全然お手伝いをしなくて……」と嘆く親のなんと多いことか……)。

Hちゃんのお母さんはさんはこう言ったのです。
「あらー、Hちゃん、言われないのにお手伝いしてくれたの? お母さん助かるわぁ。ありがとう。Hちゃん、優しい子だから、お母さん、感激しちゃった」

そして、ぎゅーっとHちゃんを抱きしめたのです。そして、Hちゃんが幼稚園に出かけてから、お母さんは床を掃除し、お茶碗を洗い直しました。

翌日、お母さんは「今日は、お母さんと一緒に洗い物しようね」と言って、「水はこれくらいの量にするといいんだよ」「お茶碗は、ご飯粒が取れやすいように、先に水につけておいて、最後に洗うといいんだよ」と教えながら、Hちゃんといっしょに洗い物をしたのです。

もちろん、「昨日は、びしょびしょにしちゃったでしょ?」なんて嫌みは言いませんでしたよ。

今、Hちゃんは、お手伝いが大好きな小学生です。お母さんの「ありがとう」が、Hちゃんのやる気(勇気)を引き出したのです。

ありがとう、伝えてますか?

患者さんに、「ありがとう」を伝えていますか?
「手伝ってくれて、ありがとう」
「今日も、ご飯を作ってくれて、ありがとう」
「つらいのに、生きていてくれて、ありがとう」
「ご飯を少しでも食べてくれて、ありがとう」
「私のこと心配してくれて、ありがとう」

前向きな考え方を教えなきゃとか、リフレーミングしなきゃということに意識を向けるのでしたら、まずは「ありがとうのネタ探し」に、時間とエネルギーを使った方がいいですよ。

当然だと思わない

感謝のコツは、「当然だと思わない」ことです。
「ありがとう」とは「有り難し」から来ています。「あり得ないようなことをしていただいた」という意味です。だから、「それはやって当然だ」と思えば、感謝しないんです。

たとえば、「妻が料理を作るのは当たり前」と思っていれば、いちいち料理のたびに「僕のためにおいしい料理を作ってくれてありがとう」なんて言いません。

「夫が働いて給料を稼いでくるのは当たり前」と思えば、帰宅するたびに「今日もがんばってくれてありがとう」なんて言いません。
「当然」と思っているということは、相手の言動が、どれほど自分のためになっているかということが分かってない、だから感動もしないということです。

相手が生きているのが当たり前だと思っていれば、「生きていてくれてありがとう」なんて、いちいち感謝なんかしません。相手が生きていることの意味、それがどれだけ自分を支えているかということが分からなければ、感謝なんかしません。

相手が生きているということが、どれだけ自分を支えているか。それが、相手が死んでみて初めて痛感するというのでは、あまりにも悲しすぎます。食事を食べてもらえるということが、どれだけ自分を幸せにしているか。それが、相手が何も食べられなくなって初めて分かるというのでは、あまりにも寂しすぎます。

あなたが、「夫なんだから当たり前」「妻なんだから当たり前」「親なんだから当たり前」「子どもなんだから当たり前」「人間なんだから当たり前」と思っていることを、あえて感謝の種にしてみましょう。

目標を決めて感謝しよう

最初のうちは、「1日3回感謝する」と言うふうに、行動目標を立てて実践してみましょう。
目標が達成されたら、「良くやったね、ありがとう」と自分に感謝しましょうね。

達成されなくても自分を責めないでください。「感謝するのは難しいもんだ。それを実行しようとしただけでもすばらしい。がんばってくれてありがとう」と、これまた自分に感謝しましょうね。
あなたが自分に感謝できる分だけ、他の人にも感謝できるようになりますから。

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